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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)6号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない(本願第一発明の構成(d)のうち、「ポリマーを急激膨張させて」が「ポリマーを急激膨張乾燥させて」の意であることも当事者間に争いがない。)。

二 成立に争いのない甲第三号証(本願発明の昭五三―一八六八一号公開特許公報)、第四号証(昭和五七年六月三日付手続補正書)によれば、従来のポリマーの押出機における急激膨張乾燥技術では、膨張媒体として水蒸気が用いられていたが、ポリマーの水分含量を極度に低下させるためにしばしば高温高圧の条件が強いられたため、製品の品質に好ましくない影響を及ぼす等の欠点があつたこと、本願第一発明は、重合後包装前の全仕上工程の最終段階としての合成ポリマー、特にエラストマーについて、押出機内における粒子の急激な膨張を容易にするため、右のような欠点を有する従来の急激膨張乾燥の改良技術に関する発明であり、具体的には不活性ガスを膨張媒体として押出機の圧縮帯域に注入することにより、従来技術において用いられている温度及び圧力により穏かな条件下で急激膨張乾燥を行い、水分含量の低い乾燥度を有するポリマーを得ることを目的として、本願第一発明の特許請求の範囲記載に係る構成を採択したものであることが認められる。

三 引用例に審決の理由の要点2摘示の事項が記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証(引用例)によれば、従来のポリマーの脱水乾燥装置では、装置内を通過するポリマー(非剛性エラストマー)から蒸気が逸出する間及び逸出後にも引続きポリマーを加熱するためにポリマーを過熱するおそれがあり、また、ポリマーから蒸気を逸出するため装置の熱伝導率が比較的小さく、更に、ポリマーが装置から出る温度が三〇〇°F又はそれ以上であるためポリマーの分解を防ぐ必要上あらためてこれを冷却する必要がある等の欠点があつたため、引用発明はこの欠点を是正する目的でその特許請求の範囲第一項記載の構成を採択したものであること、引用発明においては、従来装置の温度より低温で乾燥するものであるが、ポリマー装入時にその中に含まれていた水の温度を吐出ダイス板の直前で最高とするため、ポリマーに含まれていた水分を、ダイス板のダイス孔を出る時まで温度をその沸点より高く保ち、圧力によつて液態に保つて、高い総合熱伝導係数を維持させることが必要であり、かように高温となつている水は、ダイス孔から大気圧の下に出ると直ちに気化して蒸気となり、ポリマーから逸出するが、この瞬時の蒸気変換により水及びポリマーが水を気化するための顕熱を放出する結果ポリマーが冷却され、更に水の蒸気としての逸出のため、ポリマーを膨張させて多孔質に変え(ポリマー膨張のため不活性ガスを用いるが、この点は後に述べる。)、このため引続き水は蒸発し、ポリマーの水分含量が極めて少なくなることが認められる。

四 取消事由に対する判断

引用例に審決の理由の要点2摘示の事項が記載されていること、本願第一発明と引用発明とにおいて同3(一)(1)の点で一致し、同(三)の点で相違していることは当事者間に争いがない。

1 取消事由(1)について

当事者間に争いのない本願第一発明の特許請求の範囲の記載、引用例の記載及び前掲甲第三ないし第五号証によれば、本願第一発明の押出機のホツパー4から押出機内に供給されるポリマーの水分含量は〇・五ないし一六重量%であり、引用発明の押出機の第二単位(乾燥単位)のホツパー24から押出機内に供給されるポリマーの水分含量は五ないし二〇重量%であることが認められるから、乾燥対象とされる両者のポリマーにおける水分含量に重複する範囲があることは明らかである。そして、右重複範囲にある水分含量のポリマーを乾燥する場合には、両発明においての実施対象は同一であるといわざるを得ないから、この点において両発明に差異があると認めることはできない。原告は両発明におけるポリマーの水分含量の非重複範囲を取り上げてその違いを主張するが、右のように両者間に水分含量の重複範囲が存する以上、重複範囲と非重複範囲を一体のものとして扱うべきであるから、原告の右主張は採用できない。

よつて、この点に関する審決の判断に誤りはなく、取消事由(1)は理由がない。

2 取消事由(2)について

(一) 前記引用例の記載によれば、引用発明は、押出機内でポリマーを漸増的に加圧加熱し、圧力及び温度が最高となつた領域からポリマーを押出機外の低温にして低圧の大気圧領域に急に逸出させてポリマー中の水分を瞬時的に気化させてポリマーを冷却し乾燥させる方法であると認められる。そして、前掲甲第五号証によれば、引用例には<1>「上述した本発明装置ならびに方法によればエラストマーおよびその内に含まれる水の温度を吐出ダイス板79の直前で最高とすることができる。これがためエラストマーおよびその内に含まれる水は、ダイス板79のダイス孔をでる際、水の温度がその沸点よりはるかに高く、圧力によつて水を依然として液態としておく状態をとる。」(五頁右一ないし七行)<2>「かく高温となつている水は、ダイス孔から大気圧の下にでると直ちに気化して蒸気となり、エラストマーから逸出する。かような水を瞬時的に蒸気に変換すると、水およびエラストマーが水を気化するための顕熱を放出する結果としてエラストマーを瞬時的に冷却する。」(五頁右七ないし一二行)、<3>「上述したように本発明装置によれば各種の合成ゴム、天然ゴム、再生ゴムその他各種の非剛性エラストマー共重合体を乾燥することができる。たとえば二六五馬力を利用し、ゴム吐出温度を二六五°Fとして約五〇〇〇lbs\hrの割合で合成ゴムを乾燥することができる。」(六頁左二九ないし三三行)、<4>「重合物から水を瞬時的に蒸発する際ならびに装置のダイス孔をでる重合物を気化冷却する際、重合物の温度は二二〇~二三〇°Fの範囲内であつた。」(六頁左三三ないし三六行)、<5>「さらに本発明装置によれば総合熱伝導係数を比較的大きくすることができるため、製品温度を確実に加減することができる。例えば種々のエラストマーを処理するに当り、エラストマーおよびその内に含まれている水分の温度を水蒸発温度に上げるために必要な熱量を二〇~三五%を蒸気ジヤケツトから与え得ることを確めた。これがため合成ゴム、例えばブタジエンとスチレンとの共重合体を二九〇°Fの調節温度で乾燥する場合には、熱電対105を装置のダイス板79内に挿入することができる(第八図)。装置の蒸気ジヤケツトはこのダイス板と密接で熱電導接触していないから、ダイス板にはエラストマーそれ自体に温度が伝わる。」(六頁右七ないし一九行)との記載があることが認められるところ、右の<1>の記載は引用例記載の乾燥装置(押出機)の圧縮帯域における最終段階(ポリマーが吐出ダイス板79から押出される直前の段階)(本願発明の制量領域に相当する。)に関する説明であり、<2>の記載は同装置のダイス板からポリマーの押出時及び押出直後の状態に関する説明であり、<3>及び<5>の記載は右<1>の記載に対応するものであることは明らかであるから(<4>の記載は<2>の記載に対応する。)、<3>及び<5>に記載された二六五°F及び二九〇°Fは、ポリマーが吐出ダイス板から押出される直前の温度であると認めるのが相当である。そうであれば、右温度は、当事者間に争いがない本願第一発明の圧縮帯域の温度である三〇〇ないし四〇〇°Fと格別の差異はない(むしろ引用発明における温度の方が低く、この点では引用発明の方がすぐれている。)。

(二) 原告は、引用例記載の押出機において、二九〇°Fが吐出ダイス板直前の温度であるとすると、ポリマーの水分含量を〇・五重量%以下にすることはできない旨主張する。右主張は成立に争いのない甲第六号証に依拠するものであるが、同号証の数値は、引用例には二九〇°Fで乾燥されるポリマーの水分含量が明示されていないため、引用例記載の五ないし二〇重量%の水分含量範囲から、その中間値である一〇重量%を選択したうえ、同号証5記載の計算式により算出した理論上のものにすぎず、実験的裏付けを伴なうものではないから、同号証を根拠に直ちに原告の右主張を正当なものとすることは疑問である。のみならず、乾燥されるポリマーの水分含量を引用例記載の範囲に含まれる五重量%と仮定して、同号証5(a)に示された計算式により算出すると、水を蒸発するのに必要なエネルギーは四二・四八BTU\lb混合物となり、右数値は、同(b)記載の混合物を二九〇°Fの水から沸点二一二°Fに冷却する際に顕熱として得られるエネルギー四二・九より少ないことになるから、引用発明において、乾燥される水分含量を五重量%とした場合にあつては、甲第六号証の計算式によれば、吐出ダイス板直前の温度が二九〇°Fであつても右ポリマーを〇・五重量%の水分含有量のものとすることは理論上可能であるということができる。かかる観点からも、原告の前記主張は採用することができない。

(三) よつて、この点に関する審決の判断に誤りはなく、取消事由(2)は理由がない。

3 取消事由(3)について

(一) 引用発明においても不活性ガスは本願第一発明同様ポリマーの膨張媒体として注入されるものであることは後記4に述べるとおりである。

当事者間に争いのない本願第一発明の特許請求の範囲には「注入したガスとポリマー粒子とを完全に混合」することが記載されており、膨張媒体としての不活性ガス注入の目的に照らし、完全に混合するとは、前掲甲第三号証(本願公報)に記載されているように「ポリマーが………………ガスと均質に混合する」(四頁左下一二ないし一三行)ことを意味するものと解すべきである。他方、引用例にはポリマーと不活性ガスの混合についての直接的記載はないが、この点に関連して、前掲甲第五号証(引用例)に記載されている「蒸気、ガスよりなる群より選んだ物質を胴内を前進するエラストマーに射出する。」(七頁左一四ないし一五行)とは、当事者間に争いのない本願第一発明の特許請求の範囲に記載されている「注入口から………………該圧縮帯域の圧力より高い圧力で…………不活性ガスを押出機に注入」することと技術的に同義であると認められるから、引用発明においても、不活性ガス注入の目的に照らし、本願第一発明同様ガスとポリマーは均質に、すなわち完全に混合するものであると認めることができる。このことは、甲第五号証(引用例)の「ウオーム羽根の回転数が比較的大きいと、エラストマーを激しく攪拌することができる。胴周辺に二個、四個または六個の破断ボルト77を設け、これによりエラストマーが軸と一緒に回転するのを妨げ、圧縮ウオームに対するエラストマーの相対運動を激しくし、熱伝導効率を大きくする。」との記載(五頁左四二ないし四八行)によれば、ポリマーは激しく攪拌されているのであるから、かかる状態にあるポリマーにガスを射出すれば、当然ガスとエラストマーは均質に混合することになることからも明らかである。

したがつて、引用発明においても不活性ガスを注入した場合本願第一発明同様ポリマーと完全に混合されるものと認めるのが相当である。

(二) 当事者間に争いのない本願第一発明の特許請求の範囲の記載によれば、本願第一発明の不活性ガス注入位置は「圧縮帯域に沿つて位置する一又は二以上の注入口」として示されているが、前掲甲第三号証によれば、(本願公報には、その位置に関し、「ガスが逃散したり供給ホツパーに逆流したりするため圧縮部(「圧縮帯域」の意)の最初の部分とすることはできない」(四頁左下一五ないし一七行)との記載があり、また、圧縮帯域について「一般に大気圧以上の圧力であり、スクリユー装置内で圧縮されたポリマーにより押出機のバレルに沿つて生じた封止効果により圧力が連続的に増大する領域と定義しうる。」(四頁右下二ないし五行)との記載があることが認められる。

他方、前掲甲第五号証によれば、引用例には、「本発明装置にガス又は蒸気を送入するために、第6A、10及び一一図に示す弁を破断ボルトの任意の一個の代りに単位の壁に挿通することができる(第一〇図)。」(五頁右四七ないし六頁左二行)の記載があり、破断ボルトについて「本装置の作動に当つては、上述した脱水装置から脱水したエラストマーを直接ホツパー24に送り、入口64を経て送りウオーム65に送る。エラストマーをこの送りウオームでわずかに圧縮し、最初の破断ボルト区域を経て圧縮ウオーム69、70などに送る。最初の圧縮ウオーム69のピツチを送りウオーム65のピツチよりも小さく定めるを可とする。第1圧縮ウオーム69によつてエラストマーを第2破断ボルト区域を経て圧縮ウオーム70に押出しエラストマーをなお一層圧縮する。圧縮ウオーム70によつてエラストマーを次の破断ボルト区域を経てピツチの小さいウオーム71に押出しエラストマーをなお一層圧縮する。」(四頁右三五ないし四七行)、「圧縮ウオームと破断ボルトとのピツチを適当に設計し、機械的圧力を増大してこれをエラストマーに加えてこの圧力値をエラストマー中の水分の蒸気圧よりも常に大きくし、水を液態に保つようにする。」(五頁左七ないし一一行)との記載があることが認められ、右記載によれば、引用例の押出機における破断ボルトは、本願公報に記載された本願第一発明における圧縮帯域に相当する帯域に設けられているものということができる。そして、引用例の押出機において、入口64に近い部分にガス注入弁を設ければ、ガスの逃散やホツパーへの逆流がおこることは明らかであり、引用例の押出機においても、ガス注入位置としてかかる部位を避けるのは当然であるから、いずれもポリマーの膨張媒体として不活性ガスを注入する引用発明と本願発明において、ガス注入位置が特に相違するものと認めることはできない。

(三) したがつて、審決には原告が主張するような相違点の看過はなく、取消事由(3)も理由がない。

4 取消事由(4)について

(一) 先ず、引用発明において、押出機に装入されたポリマー中に含有されていた水分の状態について、検討する。前掲甲第五号証によれば、引用例は、ポリマー中の水分の状態と熱伝導に関し<1>「装置内をエラストマーが通過する間常にエラストマー中の水分を液態に保てば装置内における総合熱伝導係数を大ならしめ得ることを確めた。」と記載し(五頁右二三ないし二五行)、装置の作動について、<2>「本装置の作動に当つては、上述した脱水装置から脱水したエラストマーを直接ホツパー24に送り、入口64を経て送りウオーム65に送る。エラストマーをこの送りウオームでわずかに圧縮し、最初の破断ボルト区域を経て圧縮ウオーム69、70などに送る。最初の圧縮ウオーム69のピツチを送りウオーム65のピツチよりも小さく定めるを可とする。第1圧縮ウオーム69によつてエラストマーを第2破断ボルト区域を経て圧縮ウオーム70に押出しエラストマーをなお一層圧縮する。圧縮ウオーム70によつてエラストマーを次の破断ボルト区域を経てピツチの小さいウオーム71内に押出しエラストマーをなお一層圧縮する。」(四頁右三五ないし四七行)と記載したうえ、熱伝導に関して、右記載に引続き<3>「この作動工程中エラストマーは装置外匣の熱壁に触れる。」(四頁右四七ないし四八行)と記載するほか、<4>「圧縮ウオームを比較的高速度で回転し、………………電力を熱エネルギーに変換し、エラストマーおよびそのうちに含まれる水に熱を与えるようにする。」(五頁左三九ないし四二行)と記載していることが認められる。右<3>、<4>の熱伝導についての記載は、ポリマー内部に関する事項だけでなく、熱壁、圧縮ウオーム等の装置部分に関する事項を含むものであるから、前記<1>記載の総合熱伝導係数を確保するとの観点に立脚すれば、押出機(装置)内において装入ポリマーに含有されていた水分を液態に保てばよく、液態となつた水分がポリマー中にのみ存在していなければならない理由は見出しがたい。そうすると、総合伝導係数に関する<1>の記載は、装入ポリマー中に含有されていた水分を常にポリマー内部においてのみ液態に保たなければならないというのではなく、装入ポリマー中に含有されていた水分を押出機内において(例えば、ポリマーと壁との境界付近もこれに含まれる。)、常に液態に保てばよいことを意味するものと解せられる。そして、引用発明において、押出機内に不活性ガスが注入圧送された場合には、装入ポリマーに含有されていた水分は、不活性ガスの気泡内に移動することはあるが(かかる現象は不活性ガスを注入した以上不可避的に発生する。)、押出機においては右水分を液態に保つべく高温、加圧状態が維持されているのであるから、右水分は不活性ガス内で液態を保つことになるのであり、引用発明がかかる状態を排斥するものであるとは解せられない。換言すれば、装入ポリマーに含有されていた水分が押出機内において液態に保たれていれば、総合熱伝導係数は効率よく確保されるのである。そうであれば、審決摘示に係る「エラストマーが胴内にある間に材料内の水が液体より蒸気状態に変換するを防止する。」との引用例の記載部分(特許請求の範囲第一項)における「材料内の水」の意義も同旨に解釈すべきであり、原告主張のように、装入ポリマーに含有されていた水分をポリマー内部でのみ液態に保つことが引用発明における必須の要件と認めることはできない。原告は、引用発明において不活性ガスを注入するとポリマー中の水分は不活性ガスの気泡中に移動し、液態から気態に変化することとなり、装入されたポリマー中の水分を液態に保つことにより総熱伝導係数を維持するとの引用発明の技術思想に反する旨主張する(引用発明の技術思想がこの点にあることは当事者間に争いがない。)。しかし、引用発明において、装入ポリマーに含有されていた水分が不活性ガスの気泡中に移動しても液態を保つた状態にあることは前記のとおりであり(もし、原告主張のように、右水分が不活性ガスの気泡に移動して気態化するおそれがあれば、圧力条件を適宜設定することにより、かかる現象は防止することができる。)、かように装入ポリマーに含有された水分が押出機内において液態に保たれていれば、総熱伝導係数を維持し得ることは既に説示したとおりであるから、引用発明を前記のように理解することは、その技術思想に反するものではない。したがつて、この点に関する原告の主張は採用できない(もつとも、不活性ガスが存在すること自体による総熱伝導係数への影響は否定し得ないが、この点に関しては後記(二)において述べる。)。

他方、本願第一発明も押出機内でポリマーを加熱するものであるから、総熱伝導係数の確保ということは当然に前提たる課題としているものと認められる。そして、その特許請求の範囲には、(b)ポリマーを約一四九ないし二〇四℃(三〇〇ないし四〇〇°F)の温度にまで昇温させるに十分な圧力下に押出機の圧縮帯域を通して移送すること、(c)この圧縮帯域に沿つて位置する一又は二以上の注入口から圧縮帯域の圧力よりも高い圧力で所定量の不活性ガスを注入し、注入ガスとポリマーを完全に混合すること、(d)ポリマーとガスとの圧縮混合物を制量帯域に移送し、該制量帯域を通して大気圧に維持した帯域中に膨張させ、ポリマーを急激膨張乾燥させることが記載されているにとどまり、原告が主張するような圧縮帯域及び制量帯域における、ポリマー中の水分の状態、ポリマー中の水分状態と不活性ガスの関係、圧縮帯域及び制量帯域の圧力とポリマー中の水分及び不活性ガスとの関係等についてなんら限定的な記載は見出し得ないから、引用発明同様装入ポリマーに含有されていた水分がポリマー内を含め押出機内において液態を保つ状態も本願第一発明に含まれるものということができ、この点において、両発明に変わるところはないものというべきである。(なお、引用発明において、原告主張のように装入ポリマーに含有されていた水分がポリマー中でのみ液態に保たれるものと理解しても、水分は不活性ガス内でも液態を保つものであることは前記のとおりであり、また、前記のように本願第一発明が装入ポリマーに含有されていた水分の状態について、なんら限定を付していない以上、水分の状態について、両発明間に差異はないのである。)

(二) 次に引用発明において、不活性ガスを注入する技術的意義について検討する。前掲甲第五号証によれば、引用例には「ある場合には本発明装置内に空気、不活性ガス、過熱水蒸気を圧送し、装置の出口からでるエラストマーの多孔性を増す方がよいことがある。」と記載されていることが認められる(五頁右四三ないし四五行)。右記載は、総合熱伝導係数等の熱伝導に関する説明部分の次に位置するもので、しかも押出機内に気体を存在させることは熱伝導の点から好ましくないことに鑑みれば、右記載中の「ある場合には」とは、総合熱伝導とは別個の観点に立脚して、不活性ガス等の気体を注入した方がよい場合がある、ことを説明したものと解するのが相当である。そして、引用発明において、その目的が本願第一発明同様ポリマー中に含有される水分の除去(ポリマーの乾燥度の向上)にあること、前掲甲第五号証(引用例)中の「エラストマーから水が蒸気として逸出するため、エラストマーを膨張して多孔質組織に変え、これがため水を引続き蒸発せしめエラストマーの湿気含有量をほぼ皆無とする。」との記載(五頁右一二ないし一五行)からみて、ポリマーの多孔性が右水分の除去に関係すると解されることを勘案すれば、気体圧送に関する右記載は、押出機内に不活性ガス等の気体を注入圧送することは、総合熱伝導の点からみれば必ずしも好ましくないが、引用発明の目的であるポリマー中に含有された水分の除去という点からみれば、不活性ガス等の気体を注入圧送することにより、ポリマーが押出機から低温大気領域に急激に逸出され、含有する水分が瞬時に気化される際に、また、ポリマーを冷却する際にポリマーの多孔性を増すこと、すなわちポリマーの膨張を助けることの方が有利な場合があるとの趣旨を示したものと解するのが合理的である。そうであれば、引用例の気体圧送に関する右記載は、原告主張のように無意味な記載であるということはできず、かえつて前記二に認定した本願発明における膨張媒体としての不活性ガスの使用目的を開示しているものということができるのである。

原告は空気、不活性ガス、過熱水蒸気のいずれを選択するも多孔性は増すが、引用例の五頁右四三ないし四五行の「ある場合には」以下の前記記載からは多孔性を増すことがポリマーの脱水乾燥に有用であるか否か明らかでない旨主張するが、この主張が理由がないことは右に説示したところから明らかである。なお、引用例の五頁右一二行ないし一五行の前記記載が引用発明における乾燥単位による工程とは別個の乾燥工程に関する事項でないことは引用例の全記載から明らかなところであり、他に引用例の記載を検討するも、引用発明がかかる別個の乾燥工程を予定していたものと認めることは到底できない。

(三) よつて、この点に関する審決の判断に誤りはなく、取消事由(4)は理由がない。

5 取消事由(5)について

前記4で認定したように、引用発明はポリマーの乾燥度を増すため不活性ガスを注入することが開示されていると認められるのであり、右乾燥度の向上は、不活性ガスが押出後のポリマーの膨張を助け、多孔性を増大させ、それに伴なつてポリマー芯部の水分が抜けやすくなることによつてもたらされるものであることも前記認定により容易に看取し得るところである。したがつて、ブローバツク(逆流)が生じない範囲において、不活性ガスの量が多い程多孔性が増大し乾燥度が向上することは当業者であれば容易に予測し得るところであり、その量は実験的に適宜定め得る程度のものと認めて差支えない。

原告は、引用発明において、ポリマー中の水分が不活性ガスの気泡中に移動すれば、水分は液態から気態に変化することを前提として、本願発明の注入ガスの量の決定の困難性を主張するが、その前提が採り得ないものであることは既に説示したとおりであるし、水分の移動により圧力等の注入条件を変える必要があるとしても、それは当業者が適宜設定し得る程度のものである。

したがつて、この点に関する審決の判断に誤りはなく、取消事由(5)についての原告の主張も理由がなく、前掲甲第六号証及び成立に争いのない甲第一〇号証も右判断を覆えすものではない。

6 取消事由(6)について

(一) 乾燥されたポリマーの水分含量が引用発明においては〇・五重量%以下、本願発明においては〇・三重量%以下であることは当事者間に争いのないところであり、前掲甲第三号証(本願公報)には、原告が主張するように、更に水分含量の少ない数値の事例が示されていることが認められるから、水分含量が少ない点において本願発明の方が引用発明に比しすぐれている如くみられるが、前記4及び5に認定したように、ポリマーの乾燥度向上のため不活性ガスを導入することが引用発明に開示されており、導入すべき不活性ガスの量も当業者において適宜決定し得るものである以上、両発明の右の程度の水分含量の差は予測の範囲内であるというべきであり、これをもつて格別なものとすることは相当でない。

(二) 原告は、両発明の押出機から吐出(押出)直前の温度の対比を通じ、押出後の温度を対比し、気化冷却による効果の差を主張するが、両発明において、押出直前の温度差に格別のものがないことは前記2において認定したとおりである。また、前掲甲第三号証によれば、本願公報には「例1」として、押出後「二四六°Fのゴム片温度を有する均一な乾燥ゴム片粒子が得られた。」との記載があることが認められ(七頁右上一九ないし二〇行)、他方、引用例には、前記2(一)<4>に記載されているように、押出後冷却された温度が二二〇ないし二三〇°Fであるポリマーの事例が示されており、この両者の押出後の温度を比べると、押出後の気化冷却の効果は引用発明の方がすぐれているとさえいえるのである(原告は右の対比の相当性を争い、甲第三号証(本願公報)の例1と比較すべきは、同号証の不活性ガスの注入のない比較例3(これによれば押出後の冷却温度は二八〇°Fである。)である旨主張するが、引用発明が不活性ガスの注入のないものに限られるものではなく、むしろ不活性ガスを注入した引用例記載の前記事例と対比するのが相当であるから、原告の右主張は理由がない。)。

(三) したがつて、この点に関する審決の判断に誤りはなく、取消事由(6)についての原告の主張は理由がない。

7 以上のとおり、原告主張の取消事由はすべて理由がなく、本訴にあらわれた他の証拠を検討するも右取消事由を裏付けることができないし、他に審決を取消すべき違法を認めることもできない。

五 よつて、本訴請求を失当として棄却する。

〔編注1〕本願第一発明の要旨は左のとおりである。

「供給帯域、圧縮帯域及び制量帯域を含有する押出機により、約〇・五~一六重量%の水を含有する湿潤ポリマー粒子を急激膨張により乾燥する方法において、

(a) ポリマー粒子を前記供給帯域に導入し、

(b) 該ポリマー粒子を約一四九~二〇四℃(三〇〇~四〇〇°F)の温度にまで昇温させるに十分な圧力下に前記押出機の圧縮帯域を通して移送し、

(c) 前記圧縮帯域に沿つて位置する一又は二以上の注入口から該圧縮帯域の圧力よりも高い圧力でポリマー一〇〇ポンド当り〇・〇〇四乃至〇・〇四ポンド―モル量の不活性ガス〔約二〇〇〇psiまでの圧力及び約二〇四℃(四〇〇°F)までの温度でガス状態にある〕を押出機に注入し、かつ注入したガスとポリマー粒子とを完全に混合し、

(d) ポリマー粒子とガスとの圧縮混合物を前記制量帯域に移送し、かつ該制量帯域を通して前記混合物を大気圧に維持される帯域中に膨張させ、もつてポリマーを急激膨張させて、約〇・三重量%より少ない水を含有する乾燥ポリマー粒子を製造する

各工程より成ることを特徴とする上記方法。(別紙図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

(他は省略)

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